私は比胡にどう思われたいの?
そんな問い掛けに答えてくれるべき人である筈の私は、口をつぐんだまま。
比胡はどうしてそんなに私のことを厭うの?
……この問い掛けに答えてくれるべき人である筈の比胡は、やっぱり私を避けたままだった。
「あれ? 先生に、敦盛さん。それ、どうしたんですか?」
何時からか癖のように比胡を探すようになっていた。
ただいつも見つかるかと言えば答えは“ノー”で、今日はまさにその日だ。
もう日も暮れかけているというのに、一向にあの蒼穹色を見つけだすことは叶わなかった。
そんな時魚を籠いっぱいに抱えた二人の姿を見付け、声を掛けたのだ。
「夕餉の材料に持って戻った」
簡潔と言えば簡潔な返答。
成るほどと思いながらも、二人にこんなに釣りの才能があったとは知らなかった。
確かリズ先生は釣りを嗜むこともあった気がしたけれど、今日のように大漁だと言うのは一度も見たことが無かった。
「随分と大漁なんですね。二人とも、凄いなあ」
だから頻りに感心する。
けれども、ほんの一瞬奇妙な間が二人と私との間に落ちた。
「……その、神子。凄いのは、我々では無い」
少しだけ言うのを躊躇うような敦盛さんに、私は少し首を傾げた。
そんな敦盛さんのフォローをするように、先生が私に説明するために口を開く。
「此れは殆どが比胡が釣ったものだ。共に釣りに行きはしたが、私達は其れ程釣れたわけではない」
……比胡?
え? だって、比胡は。
比胡は、釣りは一人で思索に耽る為にするものだ、って言ってたのに?
其れなのに、二人と一緒に行ったっていうの?
――私がついて行きたいと言った時は断ったのに。理由までちゃんと言ったのに。
「……嘘吐きだ」
唇を噛み締めると血の味がして、少し切れてしまったことが解った。
でも、何だか悔しくて、悲しくて、……意味が解らない。頭がぐちゃぐちゃだ。
「神子、本当ならば比胡殿には口止めされていたのだが、……その、比胡殿は、皆が言うほど悪い方ではないと、私は思う」
私の呟きが聞こえていなかったのか、敦盛さんが比胡を庇うような形で言葉を紡いで行く。
「夕餉の材料として持ち帰ったら如何かと言ったのは私だが、釣った魚を“好きにしろ”と言って渡してくれたのは比胡殿だ。……比胡殿は、自分が釣ったとは言外するなと言っていたが……其れは、その、……比胡殿を良く思っていない者もいるから、気遣っているのではないかと思う」
確かに、比胡が釣って来たと知らされた途端、嫌そうな顔をする人も居るかもしれない。
否定出来ないのは哀しい事実だけれど、そう仕向けたのは比胡自身のようにすら思える。
なのに……敦盛さんは、比胡を庇う。
先生も言葉には出さないけれど、比胡に対する周囲の目を気にしているのは確か。
「如何して、気遣っていると言い切れるんですか? ……煩わしかっただけかもしれないじゃないですか」
こんな言葉を吐く自分が情けない。
でも、聞きたかった。
比胡と穏やかに会話を交わせる人たちから見た、彼という存在の話を。
――私は、比胡の事何も知らないから。
「……それは」
「何時か厭われるのならば、最初から嫌われた方が良い――自ら嫌われるように仕向けた方が良い。……そんな態度に見える」
敦盛さんの言葉を引き継ぐように、先生が淡々と語った。
まるで比胡の言葉を聴いたかのような迷いの無さで。
……先生が発した言葉は、敦盛さんが言おうとしていたものと相違なかったのか、敦盛さんも緩く頷いてみせた。
「……本当は、比胡殿こそが一番誰からも嫌われたくないと願っている……そんな気がしてならない。……だから、神子」
其れきり、敦盛さんは黙ってしまった。
だから、何なのだろう。
嫌わないでやって欲しい? ……救ってあげて欲しい?
そんなのは傲慢だ。
……だけれど。
それと同時に思う。
――私に比胡が、救えるだろうか? と。
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