結末は何時だって弁慶さんを失う事でしかない。
あれ程上手く行っているように見えた運命の上ですらまるで予め定められていたように容易に死と言う名の糸に絡め取られ私は失ってしまった。
募る想いは愛しみと哀しみの他に――苛立ちだ。
自分の思い通りに行く人生なんてあるわけがない。
ただでさえ遣り直せるチャンスを貰っているのだ、仮令どんな不遇な境遇にあろうとも私は恵まれている。
――恵まれて、いるのに。
「……私が望むことは、そんなに我儘なことなの?」
望むは彼との未来。
そんなちっぽけなことが、叶わない。
幸せになることだけが阻まれる。
弁慶さんだけが死んでしまうことも、私が弁慶さんを失ってしまうことも……
全ては予定調和の内だと?
それならどうして私は運命を上書きすることが出来るの。
駄目なら駄目だと、はっきり通告して欲しい。
そうしたら私も諦めて、彼と共に散れるのに。
――嗚呼、また苛立ちだけが積もって行く。
「望美さん、前に出過ぎです!」
怨霊と対峙している際に背後から弁慶さんの叱責が飛んだ。
其の声がやけに癇に障る。
本気で心配をしているわけでもないのに、口でだけは心配しているように振舞っている。
「望美さん!」
声が急に近くなったかと思うと、ガキ! と鋭い音が左手で響いた。
視線を走らせると其処には上に向けて弧を描く薙刀と、それに剣を弾かれる兵士の怨霊の姿があった。
誰の薙刀かなどと問う迄もない。
――此れは、弁慶さんの薙刀だ。
「くっ!」
右足の踵で地面を力強く踏み締め身体を捻り剣を振るう。
薙刀の下を刃が一閃し、怨霊は声も無く崩れ落ちた。
「だから前に出過ぎだと言ったでしょう。君は周りが見えていません」
私が剣を鞘に収めるより先に窘めるように弁慶さんは言った。
そんなこと解っている。
誰よりも己の不覚を悔い、愚かな行動だと一番に思っているのだ。
……こんなんじゃ、誰も護ることなんてできないじゃないか。
「望美さん、君は――」
また、あなたを失ってしまう……。
「軽率でした。反省してます」
遮るようにして言い放つと、弁慶さんは俄かに顔を歪ませた。
見逃してしまっても可笑しくはないような、些細な変化だ。
「……解っているのなら良いんです。けれど最近の君の行動は余りに危うい。一人で先走っているようにも見える。……何をそんなに焦っているんですか?」
焦るのだって、当然だ。
どうやっても解決の糸口は見つからないし、呑気に流されるままに戦っていても結果は良い方に傾かないと知っている。
だからこそ皆の背に庇われながら戦うのなんて真っ平御免なのだ。
だのにそれを解って貰えず、弁慶さんは私が無茶な行動を取ったとしか見てくれない。
……私だって、何も考えていないわけじゃない。
解ってもらえる筈なんてないのに、「如何して解ってくれないの?」なんて見当違いな責め苦が出そうになる。
「焦りますよ。私が戦わないと怨霊は増え続ける一方じゃないですか。……何時まで経っても戦は終らない。怨霊も消えてくれない。一向に世の中は良くなってないじゃないですか。……早く平和な世界を、と望み、焦るのは……間違った事ですか?」
身勝手な苛立ちから、自然と声が喧嘩腰になってしまう。
弁慶さんが私の言葉を不愉快に感じていることがありありと伝わってくる。
「――間違ってなどいません。けれど、焦りは禁物です。僕等は――源氏は、一刻も早く戦を終わらせようとしています。何もしていないとは言わせません。……望美さん、君は少し頭を冷やした方が良い」
窘めると言うよりも批難する響きで以って、弁慶さんは言い放ち私と距離を置いた。
腕を額に当て、興奮した頭を少しでも少しでも冷やそうとする。
――感情的になった自分に、泣きたくなった。
何度だって君に恋をします。
そう、弁慶さんは言ってくれたけど、……そんなことは無い。
「……嫌われちゃった、かな」
呟いてみると、それがより一層現実味を増し、胸が酷く痛んだ。
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