何時か来る運命。

 この命尽きるまでには訪れぬかも知れぬ運命。

 使命を果たせる日を夢見て生きている哀れな一族の末裔。

 使命を果たせずに悲しみに暮れた末路を辿る愚かな一族の末裔。

 何も為していないのに、星の姫と呼ばれる我が身。

 わたしは踊る。

 星が示す運命を嘲笑いながら。

 私は躍る。

 このまま生を終えてしまいたくはないから。

 何故神子様を待つ必要がある?

 其れ以外に我ら一族は必要ないと言うの?

 ただ神子様がこの世界に召喚されるその日まで一族の血を絶やさぬように生き抜けと?


「愚かだこと」

 幼さの残る、花の様に麗しい顔は今は歪められている。

 今年で齢十五を数える、些か勝気そうな瞳を持つ少女は、厳しい目で整えられた庭を見ていた。

 夜の帳が降りてから既に数刻。

 闇に包まれた庭には今はしんと静まり返っている。

 神子様の為に、と何時ぞやの星の一族は庭を整えたのだと言う。

 幼き頃は神子様に仕える事が出来るかもしれぬと小さな胸を高鳴らせていた。

 しかしそれも十を数える頃まで。

 遙か過去の文献まで読み解いてはいないが、龍神の神子が現れた時、先代、先々代の星の一族は十前後の年齢だったと記述されている。


 ――わたしの代に、神子様は現れなかった――

 それも運命だろうと父は言う。

 子を残しなさいと周りの者達が言う。

 巡る運命の輪に少女を組み込もうとしている。

「……こんなことならば、わたしは星の一族に生まれとうなかった……」

 俯むけば、はらり……と、菫という名の花通りの色の髪が零れ落ちた。

 薄く肉の乗った肩が震える。

 其れが悲しみからなのか、眠るだけの薄い装いをしている為なのか、解らなかった。

 神子様の居らぬ世で、一族としての能力を高めたとて一体何の意味があろうか。

「せめて一目、神子様をこの目で見たかったわ」

 過去の一族が、一番願ったことを、少女もその小さな胸で…心より願った。

 仕える事が叶わずとも、如何か一目この目で…、と。

 その時

 チリン――、と、鈴の音が聞こえた気がした。

「……?」

 次第に間断なく、大きくなってくるその音に、耳を塞ぎたい衝動に駆られながらも、緩やかに立ち上がる。

 庭の方から、聞こえてきている…。

 普通ならば誰かを呼び確かめさせるというのに、今日は何故だかそんな考えが露とも思い浮かばなかった。

 何かに導かれるように庭へと降り、今では騒音でしかない音を確かめに進む。

「確か、この辺り……」

 とん、と木の幹に手を触れた所で、光の奔流に飲み込まれる。

きゃああああああああ!

 避ける事も、逃げる事も叶わずに、ただ光に目を潰されぬようにきつく目を瞑った。

 ――廻る、廻る運命の輪。

 数多の時代を飛び越えて、数多の時空を飛び越えた。

 そうして、星が流れ落ちるかの如く、一人の姫が世界から姿を消した。



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