再びふらりと姿を神子達の前に現した時、神子は慌てる風でもなく、さも当然のように私を受け入れた。

 ――まるで、初めより私が戻って来るのを知っていたかの如く。

 否、実際知っていたのかもしれない。

 私の知らぬ“私”が、このように一度消えて再び神子の前に姿を現していたのかもしれない。

 其れは否定出来ない仮定。

「――神子」

 ひとつだけ、確認しておきたい事があった。

「剣を取りなさい」

 其れは神子の強さ。

 恐らくは一度ではない、私の正体を知る程には神子は逆鱗の力を使っている。

 ならばその強さは如何程のものか。

 ……其れを確認しておかねばならなかった。

 そして、まるで私がそう言うことも想定内だったかのように、神子は何の躊躇いも無く剣を構え、ゆっくりとその身を躍らせた。

 ――其の剣筋は、私に似ていた。

 風の動きを読むように自然に合わせて動く剣は、わが師より受け継いだもの。

 間違い無い、神子の師は――私自身。

「……ッ」

 一瞬とは言え思考に囚われていたのか、神子の剣が口を覆う布すれすれを薙ぐ。

 いや、実際には剣先が掠っていたのだろう。

 不意に外気が頬に当たる感覚がし、顔の一部が露になってしまったことが知れる。

 最早見られる事を怖れる程に幼い感性は失われたが、其れでも他者を不快にさせてしまう部類には違いなく、直ぐに皆に背を向け整える。

「すみません先生ッ!」

 飛んでくる神子の謝罪に、構わないと言うように首を横に振った。

 ――神子は強い。私が思って居たよりも、遙かに。

 其れは剣の腕のことでもあり、また、精神面の強さにも当て嵌まる言葉だ。

 だが、決意は変わる事など無い。

 神子を護るという意思だけは、決して変わる事は無いのだ。

「……私はお前と共に行こう」

 お前が生きる未来の為だけに、私は、剣を振るえば良い。

 ――私の言葉を聞いた神子は、心底嬉しそうに微笑んでいた。

 其れは長年、私が待ち望んでいたものだったのかもしれない。

 ……だが。

「私、頑張りますね」

 そう言った時の神子の目は、唯々静かに――私と同様に、強い決意の炎を宿しているようにも見えたのだった。





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