■ひとつしか選べない
 人を好きになるのがこんなにも幸せな気分を味わえるものなんだって知らなかった。
 わたがしみたいにほわほわしててとっても甘い。
 すきすきだいすき。
 あなたと出会えた運命を噛み締めて、あなたが此処に存在している奇跡を噛み締めて、あなたといられる幸せを噛み締めて。
 わたがしみたいな幸せは、いつまでもいつまでも続くんだって信じてた。
 ああ、でも。
 幸せの形はやっぱりわたがしで、口に含んだらじわじわと端から溶けていってしまった。
 それがまるで決められていたことだったかのように、あなたは消えた。
 いつまでも存在できる身ではなかったのだと言ったのはだぁれ?
 私はわたがしの甘さに酔いしれて、何時の間にか総てを食べ尽くしてしまっていたの?
 口のなかに残る甘い味だって、終には消えてなくなってしまう。
 そうするといつしかそれが夢のなかのことだったんじゃないかと疑わしくなってきて、私は幸せの存在すら疑ってしまった。
 ああ わたし しあわせだった のかな?
 答えを返してくれる人はもう、いなくて。
 さびしくてさびしくてどうしようもなくなって、私の行く道を塞がれたように感じて。
 如何したら戻ってきてくれるの、なんて、一生懸命考えて。
 そうして、思い当たる。
 彼が此の世界から消えてしまったのは、此の世界が彼を受け入れてはくれなかったからなだって。
 彼の存在を赦す場所がなかったからなんだって。
 だから、彼が住める世界に戻したら、きっと全てが元通り。
 きっと戻ってくるきっと帰ってくる私はそう信じてる。
 だから だから。
 コノ世界ヲ 混沌ニ陥ラセレバ 良イノデス。
 そうしたらほら、きっと彼が戻って来られるような世界になる。
 力が留まってしまえば、きっと存在が赦される。
 もう二度と世界が浄化されぬように、徹底的に、根本的に、全てを覆す。
 人が住む場所なんていらない。
 いっそのこと皆みんな怨霊になってしまえば良い。
 そうしたら、ねぇ……?
 あなたもきっと、戻って来られる世界になるよ。
 あなたは優しい人だもの。
 寂しがっている私を見るに見かねて
 戻ってきてくれる、よね?
 だから私、それを信じて選ぶよ。
 私が選ぶたったひとつの道は、全てあなたの為なんだもの。

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