■朝も昼も夜も、君だけを想ってる
「平和がこんなに幸せなことだなんて、私、知らなかったんです」
 少女独特の声が、柔らかに響く。
 剣を振るっていた頃とは比べ物にならないくらい落ち着いた、幸せに満ち足りた声。
 そんな声を傍で聞けるだなんて、自分は随分と果報者。
「そう? 望美ちゃんの居た世界って、凄く平和なカンジしたんだけどなぁ」
 彼女の暖かな膝を枕に、穏かな午後を過ごす。
 オレを選んでくれて有難うと、時折、不意にお礼が言いたくなるんだ。
 そう言うと君はきっと、恥ずかしがってしまうんだろうね。
「そう、ですね。戦争はありましたけど、私の住んでいた所からは離れていて……凄く、平和だったんだと思います。けど……」
 彼女の指がオレの髪を梳いているのが解る。
 言葉に続きがあるって解っているから、オレは口を挟まずに軽く目を閉じた。
「其れが当たり前で、平凡な毎日が詰まらない、だなんて思ってたりもして。……馬鹿だったなあ、って」
 過去を振り返る彼女の言葉尻は、自分を嫌悪しているものではなく、ただ、只管懐かしむような感じがする。
 オレとは違うな、とそう思うと胸が少しだけ痛んだ。
 自分の過去は、目を背けたくなるものばかり。
 そんなオレを助けてくれたのは、君。
 何時の頃からか、ずっと君のことばかりを考えるようになった。
 皆に優しくて、気遣ってくれていて、オレの妹を、親友と言ってくれた君。
 朝も昼も夜も、君だけを想うようになり、其処まで来て漸く自分が君に惹かれて居るのだと気付けた。
「オレは知ってたよ。平和が幸せなんだってこと。……そして、其れをオレに取り戻してくれたのは、望美ちゃんだ」
 君がオレを選んでくれることは、万に一つも無いと思って居た。
 けれど、今、君はこうして此処に居る。
 オレの言葉ひとつひとつに、笑ったり、照れたり、怒ったりしている。
 朝も昼も夜も、ずっと君だけを想っていた。
 手の届かない存在だと思い込んでいたオレの手を、君が掴んでくれた。
「私、景時さんと居られて、とっても幸せですよ」
 鮮やかに笑う君を見て、オレは笑う。
 嗚呼、やられた。
 多分きっと、これから先もずっと、何時だって。
 オレは君のこと想い続けているんだろうなぁ……。
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