■手探り
神子を捜さなくてはいけない。
頭の中にはそのことしか無かった。
「神子、私の神子。何処にいるの」
ヒトの姿を模し、ヒトの器官により言の葉が発せられる。
此処は暗い。
……此処は、寂しい。
だから早く神子を見つけたいのに。
見つけなくてはならないのに…。
どんなに捜しても、神子、いなくて。
「このまま、私は滅する?」
神子を見つけられなかったのならば、あとは絡め取るような消滅が待ち受けているだけ。
それは致し方の無いことなのだと思った。
龍と言えど何時か朽ち行く運命。
そうしてまた新たな龍が生まれる。
だけれども。
此処で消滅してしまったのならば、世界は如何なるのだろうかと思う。
此の世界も同私の責任、私の役割。
私は、果たさなくてはならない。
神子を見つけなくてはならない。
だから。
暗闇の中を手探りで、神子、探す。
「どこにいるの、私の神子」
呼びかけても返事はない。
広がるのは真っ暗な闇。
真っ直ぐに手を伸ばしてみても、見えるのは己の手だけだ。
「……応えて、神子――」
祈りにも似た想いで、呼びかける。
清らなる存在に助けて貰わねば、最早龍としても存在しておれぬ。
「神子……」
喘ぎのような音色を奏でる喉は、焦燥が色濃く出ていた。
龍であるのに。
斯くも弱い、己自身。
力の無い龍は、己の神子すら見つけることが出来ぬのか。
「私の……声に……」
認めたくない。認められるわけがない。
私の神子は、確かに居るのに、見つけられないだなんて。
神子、神子。
此の願いが叶うのならば、あの世界の危機を乗り越えた時に、私は消滅しても構わない。
だから、如何かお願い、神子。
「応えて――」
私の祈りは全て神子に関すること。
唯一の、祈り。
「君、どうしたの? 迷子?」
ぱぁ。と。
世界が光に包まれた気がした。
まるで命の源を見つけたように、私は声の方に手を伸ばす。
突如訪れた眩い光。
先程までとは逆に、光で辺りが見えなくなってしまった。
声の主を辿るように手探りをする。
すると、冷たいものが手に触れた。
何度も、何度も…打ち付けてくる。
嗚呼、此れはきっと 雨 だ。
「あなたが私の……神子……」
段々視界が開けて来て、その姿を認めた時に私は確かに笑っていたと想う。
あともう少し、もう少しで手が触れるという時に、大きな力の奔流が押し寄せた。
――此れは、時空を越える運命の力。
自分でも意図せぬうちに発動していた力の前に、伸ばした手は成す術も無く空を掴む。
――神子。
自分が引き寄せたというのに、自分が、別の世界へ誘っていると言うのに……。
見失ってしまった…。
「神子、神子……っ」
手探りで神子、探す。
手は何も掴まない。
だけど、今度は。
「神子がどこにいるのか、わかる」
私の神子の居場所。
その存在を見つけた私にとって、其れを知るのは容易なこと。
……もう、手探りをしなくても、見つけ出せる。
きゅぅ、と掌を握り締め、私は神子の気配を追った――。