「とても温かいかけらの持ち主がそなたであることを知っていながら――我は其れを手放せなかった」

 不意に独白めいた言葉を吐く人を、ただぼんやりと眺めていた。

 懺悔をしているようであるのに、其の瞳は極めて静かだった。

 淡々と、ただ己が起こしてしまった事実を告げる。

 ――私は戦えなかった。怨霊と戦う事が恐ろしかった。

 その結果、皆は怨霊に負け命を失い、……私も、また。

「幻影と成り果てたこの身には、温もりという物は何より羨ましいと感じた。其れが、此の結末を生んだ」

 此処まで来て初めて、彼は寂しそうに呟いた。

 死してしまった者達を悼むように、表情を曇らせる。

「一度助けておきながら、此度我はそなたを見捨てる結果となってしまった。其れは我の咎……申し訳なく思っている」

 彼が何を言っているのか解らなかった。

 私は何時彼と出会っていたのだろう?

 嘘を言っているようには思えなくて……私が忘れてしまっているだけのことなのだろうか。

 でも、どちらにせよ。

 切々と紡がれる謝罪の言葉を、素直に「仕方ない」と赦すことは私には出来そうにない。

 皆死んでしまった。

 私の大切な人達、全てが。

 守ると決めたのに、死なせないと決めたのに、やっと皆が笑えるような運命を切り開けたと思ったのに。

 結局、こんな所で終ってしまう。

 もう遣り直すことも出来ないの。

 私は貴方を恨みます。

 ……私の声が届いたかのように、彼は顔を歪ませる。

 其の顔を見て安心している私は、なんて酷い女なんだろう。

 本当に恨みたいのは、剣を持つ事すら怖れてしまっていた私自身なのに。

 すると彼は緩々と首を横に振り、寂しそうに笑った。

「我はそなたに……否、皆々に迷惑を掛けてばかりだった。此れより先永劫、此の世界を彷徨い続ける事が贖罪」

 本当に其れが贖罪となるのか解らないと言った表情で。

 其れでもそうするより他に、自分には如何することも出来ないと言った表情で。

 彼はただ、そう言った。

 ――目の前が徐々に暗くなって行く。

 嗚呼、私は何も知らずに死んでいくのか。

 今になってみると後悔よりも絶望感や空虚感が先に立つ。

 己の無力さと脆弱さを呪いながら、朽ち果てようとしている。

「そなたに残された時間はもう無い。……神子、如何か、そなたは浄土へと旅立つと良い」

 送別の言葉は厭味でも何でも無い、不思議と優しさに満ちていた。

「そなたのかけらは温かかった。だが、やがてこのかけらも世界に還るだろう。――持ち主であるそなたが、いなくなってしまうのだから」

 やがて私の視界は真っ暗になり何も見えなくなる。

 意識が沈み逝く最期、彼の言葉が聞こえたような気がした……。



「何時か、我も還れるだろうか? 愚かさと優しさに満ちた、独りではない世界に――」






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