終わりとはこんなに呆気無いものなんだって、この時初めて知った。
「神子様……っ!」
伸ばされた手を掴もうと、私も懸命に手を伸ばしたけれど、其の手を取る事が出来ぬまま私は雪の上に蹲った。
駆け寄った銀が私を抱き起こすようにしてくれたけれど、その事がより私を追い詰める。
――呪詛なんて、見えぬものに体を蝕まれて。
こんな風に、銀に哀しそうな顔までさせて。
私、これでお終いなの? なんて、聞けるはずも無い。
「……銀」
呪詛に蝕まれて死ぬ人の、終わりはこんなに突然なの?
手を握られた感覚はあるのに、其のぬくもりはちっとも感じられない。
「神子様……、……此れは、私の所為なのですね……」
薄らと感じて居る。
呪詛の種が銀の身にある事を。
其れでも私はあなたにそんな哀しい顔をさせたかったわけじゃない。
「……私が、いなければ」
自責に満ちた言葉を紡ぎ出す銀に、私は残った力を振り絞り、首を横に振った。
「そんな事、いわないで……」
それはとても哀しいことだから。
――それに、どちらにせよ、もう。
「……私、もう、駄目みたいだから……」
此れ以上、永らえることは出来ないのだと本能的に察知した。
不思議なもので、自分の死期が近い事が解ってしまう。
今更何をしても無駄なの。
だから貴方がこの世を去る必要は無いの。
私は、今死に逝くことに其れ程の悲しみはなかった。
「銀をこのまま残してゆくのは、少し、こころのこり」
後悔が無いわけじゃない。未練がないわけじゃない。
其れでも何故だか、全て赦せる気がした。
私が死んだ後此の世界は如何なるのだろう?
私が死んだ後銀は如何するのだろう?
何処で何を間違えたのかすらわからないけど、私が選んだ道が、私を此処に導いたのだから。
「……では、私も連れて行って下さい」
銀がもらした言葉に、私はふ、と笑いすら浮かべた。
そんなこと、私が望むわけないのに。
其れを解っているだろうに、銀は敢えて其の言葉を紡ぐ。
其処にあるのは哀願。求めるのは私の赦しの言葉。
「――だめ。いきてて欲しいもの」
銀の表情が泣きそうに歪む。
「貴方が居ない世界で、呪詛を抱えたまま生き抜けと――?」
震える声は、一体何を想って紡いだのか。
銀の手を出来るだけ強く握り、私はゆっくりと口を開く。
「しんじていて」
きっとあなたは其の侭ではないから。
――私が、願うから。
最期の瞬間まで、貴方の中から呪詛の種が無くなるように。
私が本当に龍神の神子であるのなら、最期の力で其れを叶えてみせるから。
だからあなたは信じていて欲しい。
最期の力を振り絞り、私は懸命に笑顔を作った。
既に銀の顔は見えなくなって、銀が私を呼ぶ声と、雪の音しか聞こえなくなっていたけれど。
【企画部屋】