私の胸を苦しめていた呪詛は、まるでそれこそが夢であったかのように消え失せた。
唯一無二の存在。
私は、ただ、貴方の傍に居たいのです。


「銀、気持ちは嬉しいけど、銀は、泰衡さんの部下でしょう?私と一緒に行っていいの?」
柳眉を寄せ、気遣わしげに言葉を紡ぐ神子様に、私は緩く頷いてみせる。
もう、あの方に仕える必要はない。
あの方が私を助けてくれたことには変わりなく、孤独な方であることも分かっているけれど。
其れでも私は神子様の傍に居る道のみを選んだのだ。
特別な方であるから。
お慕い申し上げているから。
面と向かっては言えはしないけれど、神子様が私の、真実の主。
「私が、残っても良いんだよ?」
其れは神子様のお優しさだと重々承知している。
その優しさを否定するわけではないけれど、私は私の意志で神子様の世界を望んだのだ。
この世界から逃げるのではなく、この方の生まれ、育った世界を見てみたいのだと。
「――神子様の世界へ“帰り”ましょう」
だから、如何か私も“行く”のではなく“帰る”のであると認めて欲しい。
貴方の帰る場所が、私の帰る場所。
「…うん。……一緒に、帰ろうか」
柔らかく笑う神子様に、私は小さな幸せを噛み締める。
その笑顔は、私だけのものであると思っても宜しいですか…?
まるで泰衡様に構って貰えて尾を振っていた金のようだ。
――きっと私は、神子様の犬。
神子様の、忠実な犬。
其れが不思議と厭ではなく、寧ろ嬉しさすら感じ胸に暖かいものが込み上げた。
「ずっとお傍に仕えさせて下さい」
「仕えないで、ただ傍に居て欲しいよ」
可愛らしいお願いは、神子様にとってみれば真剣な願い。
なればこそ、貴方に仕えたいのだと伝えはせずに緩く頷いてみせておく。
神子様に仕える事、それは即ち神子様をお守りすることに相応するから、其ればかりは外せない。
神子様が傷付かぬよう、神子様が苦しまぬよう…。
包み込むように、神子様をお守りしたいと思う。
何でもおっしゃって欲しいと思うけれど、何でも願って欲しいと思うけれど。
神子様は私に命令はされることはないだろう。
だから私はひっそりと、貴方を守る為に在りましょう。
貴方は、守られなくとも大丈夫だと言われるかもしれないけれど…。
唯一の御方を、守りたいと思う私を許して欲しい。
私は銀。
神子様の犬。
神子様は私の主であって欲しい。
私は忠実に神子様に仕えましょう。
裏切る事など致しません。
もう二度と主を違えません。
神子様だけが私の忠誠を誓うお方です。
この命尽きるまで、永遠に。
私は、銀。
――神子様だけの、忠実な犬。










リクの内容は、十六夜ENDで現代に帰る前、ご主人様と犬(違)のイメージでした。
わんわんと吠える犬ではなくて悠然とした大型犬が私の頭の中に描かれておりました…。
ちょろちょろご主人様とかいってついて回るより静かに守ってそうですよ、ね…!(何)
無理矢理に自分を納得させつつの作品になってしまい申し訳ないです。
常に申し訳ないですと言っている気がします…。
こ、今回はリク有難うございました!




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