一番長く一緒に居たような気がするレイン。

 ニクスさんだって、そう変わらない内に出逢ったけれど、何故だか私はレインと行動を共にしている事が多かった。

 そんなのに理由があるだなんて、ちっとも思わなかったのよ?

 だって、其れ程までに当たり前だったんだもの。

 それなのに……

「ねぇ、エルヴィン。私、おかしいの……」

 部屋でエルヴィンに話しかけてみても、エルヴィンはにゃぁと鳴いてピクピクと耳を震わせるだけ。

 そんな行動を微笑ましく思いながらも、私は苦笑せずには居られなかった。

 胸に手を当ててみると、心がしくりと痛む。

 レインの傍に居るうちに、胸が落ち着かなくなりだしたのは何時からだったのかしら?

 自分の胸にそう問い掛けてみた所で、無意識のものだから明確な答えが出るわけでもない。

 ただ、時折触れる指先や、ふとした会話の切れ目に必要以上にそわそわしてしまっていた。

「……これは、何……?」

 考えただけで胸が締め付けられ、息苦しくなる。

 それなのに、どんなスウィーツも敵わないような甘い甘い感覚も込み上げてくる。

 わからなくて、凄く不安で。

 何時の間にかレインを避けるようになってしまっていた。

 レインも其れには薄々と感付いて居たようで、日に日に苛立っているのが見て取れる。

「……レインに、悪い事をしてしまったわ……」

 レインを避けようとする私の態度を、ジェイドさんは察してくれていた。

 何か理由があるんだろうとそう優しく微笑みかけて、私の気持ちが落ち着く迄…と、私とレインの間に立ってくれるような形になった。

 ――其れが、レインを更に苛立たせる結果になるなんて考えもせずに…。

 自己嫌悪めいた感情がぐるぐると渦巻き、ふぅと小さな溜息が零れ落ちた。

 にぁ、とエルヴィンが小さく鳴いて擦り寄ってくる。

「ふふ、エルヴィン、慰めてくれるの?」

 優しいエルヴィン。

 漸く唇が笑みを刻む事が出来て、少しだけ心が軽くなった。

「私……レインが嫌いになったとか、そういう事じゃ、絶対ないわ」

 だって、今この瞬間にも逢いたいだなんて思って居るんだもの。

 自分が避けておいて、随分身勝手な話だと、少し苦い想いが込み上げてくるけれど。

 この感情は、嫌いとかそういう事なんじゃないの。

 ……未だ、この想いの名前は解らない。

 其れでも厭なものなんかじゃ絶対無い。

 紛れも無い、何らかの行為の形。

「……この気持ちは、何なのかしらね?」

 明日になれば、レインとちゃんと向き合って話せるようになれれば良い。

 そうして、また以前のように一緒に行動することが出来たら良い。

 甘くほろ苦い想いを噛み締めながら、私はエルヴィンの背を緩く撫でていた――。





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※faveur (ファヴール)…好意(仏語)。

アンジェの喋りって可愛いなあと思います。
恋に気付かずほわほわして戸惑っている姿をイメージ、に…!(何)