繰り返した運命の先に辿り着いた運命の瞬間。

 分岐点は此処――潮岬だった。

 置いて行かれてしまった前回の運命では、先生は消えてしまった。

 その時思った。

 此処で置いて行かれてしまってはいけないのだと。

 ……先生を一人、死地に向かわせてはならないのだと。

 それがどんなに私にとって苦しい事なのか、解らないのだろうか。

 厳しい表情で此方を見下ろして来られても、最早怖くはない。

 しっかりと目を見詰め返す。

「……先生は、何が、したいんですか……」

「……お前が生きる運命を見つけ出すためだ」

 噛み締めるように吐き出された台詞は、どの様にも取れるもの。

「――その為なら、自分が死んでも構わないと言うんですか……」

 怒りを押し殺したような声が震えている。

「それで、お前が生き延びれるのならば」

「私はっ! 私はそんなの望んでなんかいません!!」

 搾り出した悲鳴のような叫び、
 溢れ出る激情を押さえ切れずに声を荒げ、訴えかけた。

「死んでもいいだなんて、言わないで……」

 泣き落としに近い状態になっていることには気が付いている。

 だけど自分を止めることは出来なかった。

「しかし、他に道はない。私は神子が生き残るのならば、死んでも良いとさえ思っている」

 どこまでも譲ってくれないのですね。

 でも私だってそんなことは認められない。

「見つけられますよ……」

 一歩、私と距離を置くように立った先生に近寄る。

 もう逃げないでと伝えるように。

「……だが。……私がお前の為に死を賭すことしか出来ん。……其れ以外の言葉は持たない」

 言葉の一節一節から私を思ってくれているのだと感じ取る事が出来る。

 それはさながら自分が愛されているのだという感覚に陥る程。

 未だ日本に「愛」と云う言葉が無かった頃に、相手の為ならば死んでも構わない、と訳されていたと聞いたことがある。

 その話を聞いた頃はそんな風にまで想われるのならば幸せなんだろうと漠然と思って居た。

 けれど、実際は酷く――辛い。

「先生は、如何して一人で全てを背負い込んでしまおうとするんですか……」


「決断しなさい、って。そう言う癖に、肝心なところで先生は私に選択をさせてくれない」

 それは私の決断じゃない。

「――私は、先生を追います。駄目だと言われても、それが私の決断です」

 凛、と。

 言い放った言葉は強い決意に溢れたもの。

 怖いのは先生が死んでしまうこと、いなくなってしまうこと、一人で先に行かれてしまうこと。

 仮令どんなに拒絶されたとしても、譲れないものは、私にだってあるのだから。

「……お前は、強くなった。剣の技だけではない。その精神こころも」

 緩く緩く息を吐き、紡がれた言葉は何処か諦めを含んだものだった。

 まるで、私が決して意思を曲げないと言うことを知っているかのように。

「先生が強くしてくれたんです」

 先生はその言葉に微かに目元を緩めながら、一つ息を吐いた。

 その後は無言が訪れ、明確な返事も聞けなかったけれど、私は信じているのだ。

 先生が私と共に生き延びる運命を見つけてくれるだろうということを……。



【リズTOP】
【遙かTOP】



ロシア語でI love you.に相当する単語を訳したのは二葉亭四迷だったように記憶しています曖昧ですけど!(こっそり