くん、と後ろから服を引かれ不思議に思いながら私は振り返った。
視線を少し落とすとしょんぼり顔をした白龍が居て、如何したんだろうと首を捻る。
「神子」
あの時、白龍は人間となり私の共に現代へと来てくれた。
――私が望んだからか、子供の時の姿で。
彼は私を“神子”と呼ぶ。其れは二人きりの時にだけ。
神子は神子だよと白龍は言いはしたけれど、人前では呼ばないようにと言うと素直に其れを守ってくれている。
「何、白龍?」
出来るだけ優しい口調になるようにして、視線を白龍に合わせようを上体を屈めた。
外見の年齢に合わせて、白龍は相応の学校に通っている。
その事で何かあったのだろうかとも考えてたけれど、何だかんだ言いながらも順調に通えているように見えた為に其の線は無いと思う。
「……神子は、私と夫婦となってくれるんだよね?」
いきなりの発言に、思わず耳を疑った。
今まで一度たりともそんな発言をしたことがなかったのにどうして今そんなことを言うのだろうか。
「え? ど、どうしたのいきなり?」
何となく気恥ずかしくて、そんな切り替えししかできない。
けれど、訴えかける白龍の目は真剣そのものだ。
「――皆が」
ぽつり。と、小さな声が漏れる。
「皆が、神子が私と夫婦に……“結婚”してくれるのは無いと言う。子供の話に合わせてるだけだ、って。私も神子も本気だよ、と言っても信じてはくれない」
――そう言う事かと、妙に納得した。
現在の白龍の外見と同年代の子等は、白龍の言っていることは余りにも非現実的すぎるのだろう。
無理も無い。だって今の白龍の外見は“子供”なのだから。
白龍は、自分の手に視線を落として言った。
「如何してあの時、私はあちらの姿を選ばなかったのだろう……」
……人として存在する際に、白龍は選んだ。
私が、子供の姿を望んだから、その望みのままに。
けれど今は其れをもどかしがるように呟く。
「子供の姿が、厭なの?」
「……わからない。でも何だか、神子と一緒に居てはいけないと言われているようで……もやもやする」
だから、早く大人の姿になりたいと切望する。
その懸命なまでの一途さに、思わず顔が緩んでしまう。
そっと白龍を抱きしめるように腕を回し、私は囁くように言った。
「白龍、私は白龍が好きだよ。大きくなった姿も、子供の姿も。だから焦らなくて良い、ゆっくり、私の事を好きなまま大きくなって」
腕の中で、少し戸惑うような素振りを見せた白龍だったけれど、其れでも私の言った事を理解してくれているようだった。
俄かに身じろぎするようにして、そっとそっと私の耳元に口を寄せ、言ってくれる。
「……大きくなったら結婚してね」
その言葉に、私は幸せを感じて微笑まずにはいられなかった。
「勿論。大きくなったら私をお嫁さんにしてね」
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