「百均に行きましょう弁慶さん! 百均行けば殆どのものは揃うんですよ!」
ぐ、と拳を握り締め、きょとんとしている弁慶に望美は百均の素晴らしさを力説をし始めたのだった――。
そも、事の発端は二人暮らしをするにあたり色々買い揃える為に、休日に弁慶が「何から買いに行きますか?」と問い掛けたこと。
それに対する望美の反応が百均。という上記のような反応だったのだ。
「……百均、ですか?」
些か気の抜けたように弁慶が問うものの、望美はもう既に気持ちは百均へと向かっているのか、真っ直ぐに歩道を歩いて行く。
やけに張り切っているなあ、と言うのが弁慶の正直な感想だったのか、少し困ったように笑い、其の背中を追うように歩き始めた。
「そうです。百均です。……弁慶さん、百均知らないんですか?」
元々は此方の世界の住人ではないのだから、そうであっても可笑しくは無い。
そう考えてか望美は弁慶に問い掛けた。
「百均は知っていますよ。……百円均一、ですよね」
しかし弁慶は此の世界に対する順応能力は高く、一通りの知識は身につけてある。
百均、というのも例外ではない。
だが、知っているのと行ったことがあるというのはまた別の話だ。
日常生活に必ずしも必要ではなく、且つ、その雰囲気から弁慶は足を運んだ事がなかった。
「……僕は、行ったことがないですけど」
付け加えるように言った台詞に反応を示したのは、矢張り先を行く娘。
ぐるんと勢いをつけて振り返ると、其の指先を弁慶の鼻先に突きつけるようにしてびしりと言った。
「駄目ですよ弁慶さん! 百均は庶民の味方なんです! 一般生活をしていて百均に行ったことがないだなんて邪道です!」
腰に手を当ててこうまで高らかに言い切られてしまうと、普通ならば思わずそんなものなのかと納得してしまいそうになる。
けれども弁慶は臆するでもなく、少しだけ苦く笑うだけ。
「でも折角なんですし、多少値は張っても良いものを選んだ方がいいんじゃないですか?」
困窮を極める生活を強いられていると言うならば安いだけのものでも納得が行くが、経済的には余裕があり、そんなことはない。
ならば普通、見目が良いもの、実用性があるものなどを買いたがるものではないのだろうか。
こんなところでケチをしても、直ぐに壊れたりするだけだろうに。
そんな思いから弁慶は言葉を紡ぐものの、望美は頑なに首を横に振った。
そうまでする理由が解らず、弁慶は少しだけ考える素振りをしてみせた後、頷いた。
「解りました、良いですよ。百均に行きましょうか。――でも、不要なものは買いませんよ。逆に高く着きますからね」
一言釘を刺しながらも提案を受け入れる形を取った弁慶に、望美はパッと顔を明るくさせ、にっこりと笑った。
そして、それじゃあ早く行きましょうと言わんばかりに弁慶の腕を引く。
途端上機嫌となった望美に、弁慶はやんわりと微笑みながら問い掛けた。
「ねぇ、望美さん? 如何して君はそんなに百均に行きたいんですか?」
にこにこ。機嫌の良い望美は質問の意図を深く考えることなく唇を開く。
「弁慶さんと百均ってイメージ合わないから面白そうかなー、って……う、嘘です何でも無いですよ!」
……綺麗に全部を喋ってから、嘘、と言うのは少々無理がある。
「……ふふ。望美さん。君は本当に、可愛い人ですね」
焦りを隠せないような望美を見て、弁慶は微笑んだ。
その笑みを見るとまるで怒っても気分を害しても居ないように見えて、望美はほっと胸を撫で下ろしかけた――が。
「でも、今日は百均を止めにしましょうか。其れよりもっと大事なものを買わなきゃいけない事を忘れていましたから」
穏やかな口調を装いながらも、其れがまるで確定事項のように弁慶は口にした。
「え。……大事なもの、ですか?」
僅かながらにも嫌な予感がしているのか、少し強張った声で望美が問い掛ける。
弁慶は其れに、はい。と返事をして――笑った。
「ベッドを買わないと行けないでしょう? 二人が寝れるような。……矢張り寝心地が良い方がいいですからね」
「ベッ……?!」
突然の発言に、望美は目を白黒させ徐々に顔を赤らめて行く。
其れを視界に納めると満足そうに目を細めながら、弁慶はすっと望美の腰に手を回した。
「――新しいベッドで、寝るのが楽しみですね?」
有無を言わさぬ笑顔に口調。
此の人には敵わない。
そんな諦めと恥ずかしさの気持ちで半々になりながら、望美は赤い顔のまま俯くしかなかった。
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