油が切れ掛かっているのか、ジジ、と小さくも耳障りな音を立て灯が存在を主張する。
火が消えてしまえばとうに夜の帳が落ちた刻限、部屋はすぐさま闇にと呑まれてしまうだろう。
然しもう、そんなに時間は掛からない。
意識を火から逸らし、此方に背を向けるようにして腰を降ろしている少女に双眸を向けた。
「だからちゃんと手当てを受けて下さいと云ったんです」
化膿しかけた傷を隠すよう処置が施されている少女の白い肩を見下ろして、僕は冷たくそう云った。
あんなにも外を飛び回っている感のある少女だというのに、服の下に隠された膚は艶かしい程に白い。
だって、と言い訳じみた声を漏らし乍頬を朱に染め俯く姿ですら男を誘う事に慣れた女の所作に見える。
――彼女にそんな心算など、欠片もない事は知っているけれど。
「脱がなきゃいけないじゃないですか」
不平を垂らす姿に、矢張り子供だなと云う感想が浮かぶ。
確りと胸元を布で隠し乍、着物の前を合わせて露出していた膚を隠し行く。
「脱がないと治療は出来ませんからね」
淡と言い返して遣れば振り返り、恨めしげな貌で此方を睨めつけてくる。
少女らしい潔癖さを覗かせる様子は見ていて何処か微笑ましさを齎しつつ――同時に、頼りなさも覗かせている感じがする。
「デリカシーがないんです、弁慶さんは」
つんと言い切る姿は矢張り笑いを誘うものでしかないけれど、さて、少女の紡いだ言葉の意味が理解出来ぬ身は、只曖昧に頸を傾げる事しか出来ぬ。
「女の子が男の人に膚を見せるのって、とってもとっても、勇気がいることなんですよ」
僕の反応の意図を察してか、唇を尖らせ乍も彼女らしい言葉で説明めいたことを口にする。
そんな様子に苦笑いを禁じえず、そうですか、と冷たくも響いて仕舞うかもしれない音を零す。
当然僕のそんな反応に不満を感じるのだろう、変わらず不機嫌な様子が見て取れる。
「そうは言いますけど、飽く迄これは治療なんです。だから、僕を“男の人”と思わなくて良いんですよ」
少女のささくれ立った心を少しでも和らげるよう、出来るだけ穏やかな声を出そうと努め乍、少女の様子を見遣った。
――落ちるは暫しの沈黙。
口を噤んで仕舞った少女をじっと見詰めていたからか、其の間は酷く長く感ずる。
やがて如何ほど時間が過ぎ行きた頃だろうか、ぽつ、と少女が小さく音を漏らした。
「……男の人じゃない、とは、思えないです」
聞き取れるか如何かすらあやふやな音量。
少女が何を言いたいのかなど……、察せぬ程、僕は愚か者ではなかった。
「望美さ、」
「部屋に戻ります。……手当て、有難う御座いました」
口を開きかけた僕を制するように其れまでの不機嫌さが嘘であったかのように微笑を、浮かべていた。
少女が立ち上がり、竪褄を整える。
揺れる裾、褄先も揺れる。
――まるで其れが此方を誘惑しているように思えて、とても困って仕舞った。
(子供だと思ったばかりなのに、)
その仕草に不覚にも見入ってしまったのは、他でもない自分だった――。
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