最初から“男の人”だったのなら、こんなにも動揺はしなかったのかもしれない。
弟のようだと思っていた子が、突然自分よりも年上になってしまったから戸惑ってしまうのだ。
何のことは無い。
慣れてしまえば何でも無い話。
――それで済む話のはず、だったのに。
「……」
暗闇の中、掌に収まる白い鱗に視線を落とす。
銀色の鈍く持つ其れは、白龍の喉元についていたものだ。
隣からは、微かな寝息が聞こえるのみ。
夜の帳が降りた後、眠りについた彼は人の子とまるで変わらない。
自らを犠牲にしても私を生かそうとしてくれた。
心揺さぶられぬ訳がない。
其れが、私の為でなく“神子のため”であったとしても。
「――……今はこどもなのに」
ぽつ、と零した後に視線を逆鱗から少年の貌へと移す。
思わず漏れた声に反応を示す事無く、幸せそうな顔をして眠りに落ちている。
……“神子”の傍にいられる事が何より落ち着くのだろうか。
自身が神子である事を考えると随分と思い上がった考えであるようだけれども、間違いではないと思う。
上手くは、説明出来ないのだけれど。
「白龍」
腕を彼の方へと伸ばす為に動かすと、逆鱗が掌からするりとこぼれ落ちる。
下がった布団を彼の肩までかけ直して、その寝顔を見詰めた。
――彼の逆鱗があったから、こうして運命を変えることが可能となった。
あの忌まわしい運命を、変える事が。
「……どうして私を選んだの」
この運命を恨んだ事なんて、一度も無いけれど。
みんなに会えて良かったと思っているけれど。
もしも。
もしも私でなかったら。
もっと違った世界があったかもしれないのに。
「私でほんとうに良かったの」
穏やかに眠っている少年に語りかけたとて、答えなんて返って来ないと解っている。
否、正直に言うと起きている時の彼に質問を投げ掛ける勇気がないのだ。
きっと彼は純粋な瞳を隠そうともせずに私が喜ぶような言葉をかけてくれる。
それは想像に難くない――逆に、それ以外の言葉を想像する方が難しい。
「……」
さらりとした質感の、一本一本が細い銀糸の髪を指で梳く。
すると、彼の小さな手が髪を梳いていた私の手をぎゅ、と掴んだ。
温かな其の手は、生きる力に満ちあふれていて、力強くて。
彼にとっての神子は、私じゃなきゃ駄目なんだと訴えてくれているようで、嬉しくて涙が出そうになる反面、妙に気恥ずかしく頬が火照るのを知る。
まるで私を守るような力強さだ。
眠っている子供相手に馬鹿みたいだと手を握ってくる子の顔を見る。
その時、其の寝顔が、彼の大きくなった時の顔が重なって見えて、私はますます顔に熱が集まるのを感じたのだった。
熱の下げ方を知らないまま
でも決して不快な気分じゃなかったの
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