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戦など無縁の生活を送っていると聞いた。
だから初めは信じられなかったのだ。
無機質な殺人の刄を何ら慈悲を臭わす事無く振るう姿が。
何の躊躇いもない、後悔や悔恨、――愉悦でさえも。
ただ事務的にとすら見えるその姿は、血の通った人間だとは思えなかった。
龍神の神子とは果たして斯様な存在だったのだろうか。
文献で聞きかじっていたものからの想像とは、まるで違った。
けれど、戦場以外での君はとても明るく優しくて、傍にいるだけで此方も笑顔になれるような不思議な存在。
それがより恐ろしい。
まるで何かに取り憑かれたように怨霊や平家と立ち向かう姿と皆と笑い合う姿は同一人物とは思えないのだ。
誰も疑問に思わない。
誰も不思議に思わない。
ただ只管に彼女の強さに感心し、未来を読むように動く姿に感服する。
自分たちの為に強く清らかな神子が戦ってくれているのだと錯覚する。
――そんな馬鹿な話があるものか。
彼女は自分の為に戦っている。
彼女は全てを知っているかのような目でオレを見る。
あなたはうらぎりますよね。
そんな拒絶を孕んだ瞳で。
だから気付いたのかもしれない。
君が皆が思っているような存在ではないのだと。
無邪気さは本当。
けれども時折とても冷めた目で他人を見る。
まるで何度も何度も繰り返し見てきたものを見ているような目だ。
「望美ちゃん」
其の名を声に出して呼んでみる。
なんですか、かげときさん。
嬉しそうな色を含んだ声は、思考を麻痺させるのには十分な働きがある。
時に裏切り者を見るような侮蔑の目をして。
時に想い人を見るような甘い色を含んだ目をして。
――無邪気に、笑う。
「君は、強いね」
零れる言葉は君の耳に如何届くだろうか?
ただ、少しばかりきょとんとした顔をして、其の後にやわらかに目を細める。
つよくありたいんです。
嘘偽りのない言葉。君は、嘘を吐かない。
「……何の為に?」
まもるために。
間を置くこと無く率直に返答する姿は、迷いの無さをもの語る。
ひとがしぬのはほんとうにいやなんです。
はやくいくさがおわればいいのに。
すこしでもはやくへいわになるように、いっしょにがんばりましょうね。
そう言った後、君はこの上なく無邪気に笑った。
戦場でとの対比にぞわりと粟立ち乍も、その瞳がまるで此れより少し先に起こすであろう己の裏切りを責めているようで、目を逸らすことなど出来なかった。
無邪気に君は笑う。
其れは何よりも恐ろしいことのように感じた。
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