「平和がこんなに幸せなことだなんて、私、知らなかったんです」

 少女独特の声が、柔らかに響く。

 剣を振るっていた頃とは比べ物にならないくらい落ち着いた、幸せに満ち足りた声。

 そんな声を傍で聞けるだなんて、自分は随分と果報者。

「そう? 望美ちゃんの居た世界って、凄く平和なカンジしたんだけどなぁ」

 彼女の暖かな膝を枕に、穏かな午後を過ごす。

 オレを選んでくれて有難うと、時折、不意にお礼が言いたくなるんだ。

 そう言うと君はきっと、恥ずかしがってしまうんだろうね。

「そう、ですね。戦争はありましたけど、私の住んでいた所からは離れていて……凄く、平和だったんだと思います。けど……」

 彼女の指がオレの髪を梳いているのが解る。

 言葉に続きがあるって解っているから、オレは口を挟まずに軽く目を閉じた。

「其れが当たり前で、平凡な毎日が詰まらない、だなんて思ってたりもして。……馬鹿だったなあ、って」

 過去を振り返る彼女の言葉尻は、自分を嫌悪しているものではなく、ただ、只管懐かしむような感じがする。

 オレとは違うな、とそう思うと胸が少しだけ痛んだ。

 自分の過去は、目を背けたくなるものばかり。

 そんなオレを助けてくれたのは、君。

 何時の頃からか、ずっと君のことばかりを考えるようになった。

 皆に優しくて、気遣ってくれていて、オレの妹を、親友と言ってくれた君。

 朝も昼も夜も、君だけを想うようになり、其処まで来て漸く自分が君に惹かれて居るのだと気付けた。

「オレは知ってたよ。平和が幸せなんだってこと。……そして、其れをオレに取り戻してくれたのは、望美ちゃんだ」

 君がオレを選んでくれることは、万に一つも無いと思って居た。

 けれど、今、君はこうして此処に居る。

 オレの言葉ひとつひとつに、笑ったり、照れたり、怒ったりしている。

 朝も昼も夜も、ずっと君だけを想っていた。

 手の届かない存在だと思い込んでいたオレの手を、君が掴んでくれた。

「私、景時さんと居られて、とっても幸せですよ」

 鮮やかに笑う君を見て、オレは笑う。

 嗚呼、やられた。

 多分きっと、これから先もずっと、何時だって。

 オレは君のこと想い続けているんだろうなぁ……。




【お題一覧】