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貴方の死の瞬間を、私は見た事が無かった。
其れでも貴方にもう逢えないんだって、そう思うだけで、体が引き裂かれるみたいに、辛かった。
自分の思いに気付いた時には、全てが遅すぎたのだ。
死んでしまった、しんでしまった。
口にするのは簡単だけれど、実際そんなに簡単な事じゃない。
死というのは、絶対不変。生き返る事は無い……。
でも、貴方がこのまま死んでしまうなんて。
もう二度と、あの真っ直ぐな瞳が見れないだなんて。
「そんなのは、いや」
だから私は逆鱗を握り締めた。
もう、同じ貴方じゃないと解っていても、其れでも貴方に生き延びて欲しいから――。
「如何した、人の顔をそんなに見詰めて。何か付いているのか?」
訝しげな声と、顰められた眉。其れでも視線が気になるのか、手で自分の顔に触れている。
生きている、いきている。
相変わらず彼の瞳は真っ直ぐで、其れが、何だかくすぐったい。
「何でもないですよ、九郎さん。一寸見とれてただけです」
「なっ?! 望美!!」
途端顔を真赤にして動揺し出した貴方を見ると、自然と笑みが零れ、其れを見咎めるように貴方は私の名を呼んだ。
お前まで俺をからかうのか、と、そんな批難の声が上がり、私は曖昧な笑みを浮かべる。
そんなわけないじゃない。
なんて、言えるわけも無かった。
真っ直ぐな生き方、真っ直ぐな感情。
私は此れほど綺麗な人を他に知らない。
何れ裏切る兄を絶対と信じ、何れ訪れる終焉を希望と信じて。
如何したら其処まで綺麗に生きられるの?
沢山の人の死を見てきた筈なのに、沢山の人の命を奪ってきた筈なのに、貴方は一向に曇らない。
本当に綺麗だというのは、何にも汚されないもののことを言うの?
だったら、ねえ、その綺麗な貴方を護りたい。
綺麗なものは、硝子細工のように壊れやすいものなんだから。
でも、「貴方を護りたい」だなんて、貴方に伝えたら、きっと怒るよね?
だからこれは私の心の中だけの決意。
悟らせないよう、見透かされないよう、心の中に留めておくの。
……あの運命を決して繰り返さないために。
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