――ヒノエくんは欲しいものは何でも手に入れたがるんだね。
そう、愛しい声が風に乗って耳に響く。
そんなのは当たり前じゃないか。
欲しいモンは欲しくて、手に入れる為に人は努力する。
努力して、努力して、そうして漸く手に入ったものに、人はこの上ない幸せを感じるんじゃないのか?
甘い花の蜜に誘われた蝶のように、俺は自然とお前に手を伸ばす。
真っ直ぐで、綺麗で、……それでいて、見透かしたようなお前の声に、攫われそうになる。
「俺が今一番欲しいのはお前の心だよ」
不意に伸ばしかけた手を押し留め、甘く囁いてやった。
隣を歩くお前は、それこそ春風みたいな軽やかさで、俺の声から逃れるように先へと進む。
「ヒノエくんの言葉は、信用できないなあ」
戦場を駆ける姿とは掛け離れた微笑みは、砂糖で出来た甘い菓子のようにも見える。
本気だよ、と言い張ろうとするけれど、きっと、それすら笑い飛ばしてしまうのだろう。
きっとこのような少女なら、恥ずかしがって頬を染めると思っていたのに。
落胆と、同時にときめき。
甘い口説き文句にふと慣れたような仕草をしてみせるお前は俺を十分翻弄してるよ。
「――如何したら姫君は俺の言葉を信じてくれるのかな?」
でも、悟られてしまうのは癪だから、態と余裕があるように振舞ってみせる。
其れが自分の首を絞めることになると解っていながらも。
軽口を叩いていると思ったのか、芝居がかった動作で袖を口許に持って行き、考え込む仕草をするお前。
俺の言葉をあしらい慣れているような態度を取るのとは裏腹に、本気と戯言の違いも解らないお前。
それとも解っていて態とはぐらかしている?
……其れでも、其れが尚魅力的だと感じる俺は、重症かな。
「じゃあ、変な口説き文句なんか使わないで、一日に一度、単純に私の事好きって言ってくれたら信じるよ」
嗚呼、なんて罪な姫君。
そんな気紛れな一言でさえ、俺はお前に触りたくて仕方がなくなるっていうのに。
「一度だけじゃなく、何度でも。……けど、俺だけ言うのは虚しいね。お前もちゃんと、好きって返してよ」
ほんの些細な報復。
どんな反応を返すのか、楽しみにして顔を覗きこんでみたけれど、お前は予想外にも笑って、いいよ。と受け入れた。
「ちゃんと、毎回返すつもりかい、姫君」
嬉しい誤算に、少しだけ言葉が詰まってしまう。
お前が頷いてくれたことで、其れが本気であると知った。
罪な女。こんなに俺の心を惑わせるだなんて。
でも、約束だ。
今度は他の奴らの前で、思いっきり好きだ、と言ってやろう。
そうしてお前が好きって返してくれたのなら、どれだけ気持ちが良いだろう。
「……好きだよ、望美」
「うん。私も好きだよ、ヒノエくん」
いっぱいの幸福を詰め込んだみたいな言葉。
あまいこえ。
不思議な力が宿っているように、お前の声は、俺を操る。
お前の声に攫われるように、其れが当然のように、指先攫われ俺はお前を抱きしめた。
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