神子を捜さなくてはいけない。

 頭の中にはそのことしか無かった。

「神子、私の神子。何処にいるの」

 ヒトの姿を模し、ヒトの器官により言の葉が発せられる。

 此処は暗い。

 ……此処は、寂しい。

 だから早く神子を見つけたいのに。

 見つけなくてはならないのに…。

 どんなに捜しても、神子、いなくて。

「このまま、私は滅する?」

 神子を見つけられなかったのならば、あとは絡め取るような消滅が待ち受けているだけ。

 それは致し方の無いことなのだと思った。

 龍と言えど何時か朽ち行く運命。

 そうしてまた新たな龍が生まれる。

 だけれども。

 此処で消滅してしまったのならば、世界は如何なるのだろうかと思う。

 此の世界も同私の責任、私の役割。

 私は、果たさなくてはならない。

 神子を見つけなくてはならない。

 だから。

 暗闇の中を手探りで、神子、探す。

「どこにいるの、私の神子」

 呼びかけても返事はない。

 広がるのは真っ暗な闇。

 真っ直ぐに手を伸ばしてみても、見えるのは己の手だけだ。

「……応えて、神子――」

 祈りにも似た想いで、呼びかける。

 清らなる存在に助けて貰わねば、最早龍としても存在しておれぬ。

「神子……」

 喘ぎのような音色を奏でる喉は、焦燥が色濃く出ていた。

 龍であるのに。

 斯くも弱い、己自身。

 力の無い龍は、己の神子すら見つけることが出来ぬのか。

「私の……声に……」

 認めたくない。認められるわけがない。

 私の神子は、確かに居るのに、見つけられないだなんて。

 神子、神子。

 此の願いが叶うのならば、あの世界の危機を乗り越えた時に、私は消滅しても構わない。

 だから、如何かお願い、神子。

「応えて――」

 私の祈りは全て神子に関すること。

 唯一の、祈り。


「君、どうしたの? 迷子?」

 ぱぁ。と。

 世界が光に包まれた気がした。

 まるで命の源を見つけたように、私は声の方に手を伸ばす。

 突如訪れた眩い光。

 先程までとは逆に、光で辺りが見えなくなってしまった。

 声の主を辿るように手探りをする。

 すると、冷たいものが手に触れた。

 何度も、何度も…打ち付けてくる。

 嗚呼、此れはきっと 雨 だ。

「あなたが私の……神子……」

 段々視界が開けて来て、その姿を認めた時に私は確かに笑っていたと想う。

 あともう少し、もう少しで手が触れるという時に、大きな力の奔流が押し寄せた。

 ――此れは、時空を越える運命の力。

 自分でも意図せぬうちに発動していた力の前に、伸ばした手は成す術も無く空を掴む。

 ――神子。

 自分が引き寄せたというのに、自分が、別の世界へ誘っていると言うのに……。

 見失ってしまった…。

「神子、神子……っ」

 手探りで神子、探す。

 手は何も掴まない。

 だけど、今度は。

「神子がどこにいるのか、わかる」

 私の神子の居場所。

 その存在を見つけた私にとって、其れを知るのは容易なこと。

 ……もう、手探りをしなくても、見つけ出せる。

 きゅぅ、と掌を握り締め、私は神子の気配を追った――。



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