銀、と。

 貴方が私の名を呼んで下さる。

 初めて出会った、此処よりも遙か彼方遠い世界の頃より、変わらずに。

 そして、その頃から変わらぬ様子で私の手を取り、優しく微笑まれる。

 此方を見て下さる眼差しや、一緒に居られる時間。

 些細な出来事で心は満たされる。

 これは貴方が私に下さったかけがえのない、宝物。



「銀、ほら、私の世界の雪も、とても綺麗でしょう?」

 未だ誰も踏み荒らしていない新雪に足跡を残し乍二人で歩く朝の公園には静謐な空気が流れている。

 変わらず、穏かな微笑を浮かべている青年に比べ、嬉しそうに語りかけてくる少女は、寒さに頬を赤くしていた。

「……ええ、とても。……此方の世界で初めて見る雪ですから……一緒に、見れて良かった」

 その言葉に、はにかむような笑みを顔に浮かべるものの、望美はそんな自分が恥ずかしかったのか巻いていたマフラーを持ち上げ、表情を隠そうとした。

「……私も一緒に見れて良かった、って思う。……朝一人で見た時よりも……ううん、今までで1番……綺麗に見えたもの」

 マフラー越しにぼそぼそと紡がれる言葉は、きっと、静かな朝でなければ銀の耳には届かなかったであろう。

 照れながらも紡がれた望美の言葉を耳にして、銀はより一層表情を和らげた。

「……お寒いのですか?」

 返事も待たずに早足で歩く望美の体を両腕に包み込むように抱きしめる。

「ちょ、銀!」

「“マフラー”を巻き直しておりましたから、寒いのだと思い…温めて差し上げようと思ったのですが」

 抗議をするような声が上がるが、其れも本気ではない事を銀は知っていた。

 だから腕を解くこともなく、飄々と戯言を紡ぎ出すのだ。

「……別に、寒くは無いんだけど…」

「では、私が寒いので、暫しこのままで宜しいですか?」

 それならいいけど。と、妥協をするように言われた言葉が微笑ましい。

「……この世界は、素敵なものばかりですね」

 様々な感情が込められた言葉。

 心痛む事がなくなるわけではないのだろうけれど。

 其れでも、こうして二人笑い、抱き合える世界全てが愛おしいと銀は思った。

 ――叶うことなら、この腕の中に居る光を曇らせる事がないように……。


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